探す

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その日は雪が降っていた。冬島へ向けて航路をとるレッドフォース号が確実に島へと近づいている証拠だと船員一同が沸き立って、そしてしこたま酒を呑んだ。身体を温めるには一番効くのだからと最もらしい理由を並べていつも通りのどんちゃん騒ぎを誰もが楽しんでいた。
「あれホンゴウは?」
 気づいたのは宴も中盤に差し掛かった頃だった。いつもなら顔を赤らめて気分よく仲間たちと笑いあっている男が見当たらない。
「ホンゴウならさっきおまえ探してどっか行ったぞ」
「ええーすれ違いかァ」
「まァそのうち戻ってくるだろ。それまでここで呑んでけよ」
 男は椅子を叩いて隣が空いていることを示す。
「じゃお言葉に甘えて」
 ホンゴウが戻るのを待つしかないかと諦めてナマエは腰掛けた。別に彼に特別な用事があったわけではない。ただ、宴の時はホンゴウの隣で呑むことが最近のお決まりになってきていたというだけのこと。とはいえ、お決まりになってきたのはナマエの地道な努力の賜物でもあるのだが。

 ナマエはホンゴウに片思いをしている。恋心を自覚したのは数年前のこと。憧れだと思っていた感情がいつしか恋心に変わっていた。そんなありがちな展開で彼女はホンゴウに恋をした。
 彼と少しでも距離を縮めようと、宴の席で彼を探すようになった頃が懐かしい。はじめこそ他の仲のいい面子と呑まなくていいのかなんて気遣われたりもしたけれど最近なんかは彼の方から呼び寄せてくれることもある。実際、今日もどうやらホンゴウの方から探しに行ってくれたらしい。すれ違いになってしまったのはもどかしいがホンゴウが探してくれているという事実は彼女の胸を幸福で満たしていた。

「あ! ホンゴウ!」
 ジョッキを持って彷徨いている姿を見つけた途端思わず声を上げた。どうやら彼も気づいたらしい。酔っていつもより朗らかな表情の彼が歩いてきた。
「なんだこっちにいたのか」
 頭に手を置かれてゆるく撫でられる。触れてもらえたのが嬉しくてつい頬が緩んだ。
「わたしもさっきまでホンゴウ探して歩いてたから入れ違いになっちゃったみたい」
「なるほどなァ」
 適当な椅子をもってきたホンゴウは彼女の隣に陣取った。そして彼女の姿をてっぺんからつま先まで眺めてから口を開く。
「なァその格好、寒くねェか」
「んー? そうでもないよ。実はねこれ二重になってて」
「っばか! 見せんでいい」
 服をめくってみせようとしたがホンゴウによって制されてしまった。年の割に初心な反応をするホンゴウが面白くて彼女は笑った。
「おまえなァ……」
「だってホンゴウが、ふふ、大袈裟なんだもん。こんなの見せたうちに入らないよ」
「おまえが良くてもおれは……」
「え? なに?」
 ぼそりと呟かれた彼の言葉。それに気づくことなくナマエは酒を煽る。
「……なんでもない。ちゃんと冷やさないようにしてるならまァそれでいい」
 仏頂面で酒を口に運ぶホンゴウがやっぱりなんだかおかしくてナマエは陽気に笑う。彼を待つ間にそれなりに呑んでいたせいか酔いに任せて彼女はご機嫌に笑うばかり。
 それから三十分後のことだった。電池が切れたみたいに急に彼女の頭がぐらりと揺れて船を漕ぎはじめた。
「ナマエ、ナマエ。おーい、ったく」
 仕方ねェなと零しつつホンゴウは彼女の身体を引き寄せる。肩に感じる重さに安心してホンゴウは酒を煽る。
「とはいえ、これはいっそ意識されてねェってことになるのかね」
 安心しきって寝息を立てる隣の女をちらと見遣ってホンゴウはため息をつく。憎からず思われているのは確かだ。けれどこうも無防備にいられると意識されていないのではとも思う。
「どうすっかなァ」
ホンゴウの呟きは宴の喧騒に消えていくのだった。

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