「聞かないでくださいよそんなこと」
目の前に覆いかぶさってきたシャンクスが
「このまま、いいか?」
と尋ねてきたものだからつい可愛くない返事をしてしまった。そっぽを向いてしまいたいけれど彼の目がそれをさせてくれない。妬け付くような視線、彼に求められているという事実にわたしは眩暈がしそうだった。
「隣空いてるか」
頭上から聞こえた声にわたしは顔をあげる。
「お頭! どうぞどうぞ」
食堂はまださほど混んでいなかったがシャンクスは彼女の隣へと腰かけた。器用に片手で持っていたトレーをテーブルに載せるとシャンクスは喋り始めた。
「まだそのお頭って呼び方どうにかしてくれないのか」
「だってお頭はお頭じゃないですか。船の規律的にもよくないですよ」
至極当然のことを言ったつもりだがシャンクスはわざとらしく溜息をついて言う。
「でもおれたち付き合ってるんだよなァ」
「それはそうですけど」
「……一応いつかは呼んでくれる、よな?」
「まあその、時と場合によっては考えます」
「よし! 言ったなじゃあ楽しみにしとく」
ご機嫌になったシャンクスは朝飯をかき込み始める。彼と付き合う前はてっきり普段の自由人具合からわたしが彼に振り回される未来を想像していた。けれど実際付き合い始めてみるとまるで違った。彼は一歩関係を進めようとするごとに一つ一つ丁寧にわたしに伺いを立ててくる。正直意外すぎて信じられなかった。彼がわたしをこんなに大切にゆっくりと進もうとしてくれるなんて。
手を繋ぐのもキスをするのも、名前の呼び方も。ひとつひとつのステップをゆっくりと進んでくれている。待たせてやいないかと時々不安になるけれど彼はいつものあの笑顔で笑っていてくれる。拗ねたように頬を膨らませる日もあるけれどそれでも彼は待ってくれていた。
そうやって少しずつ重ねてきた関係はとうとう夜の約束をするまでに至っていた。
「このまま、いいか」
この期に及んでまだわたしの意思確認をする彼に思わず可愛くない台詞がでてしまう。それを彼は揶揄うでもなくただ真剣な瞳で射貫いてきた。気づくとわたしは全身を彼の身体に包まれていてそれはもう優しく丁寧に抱かれていた。
けれどわたしはシャンクスのその優しさに触れるたびに彼のことがわからなくなっていっていたのも事実だった。わたしと一緒にいる間もいつもの笑顔でいてくれるけれど、お頭らしくないような、シャンクスらしくないような違和感がずっとあった。
「無理してませんか?」
ついに耐え切れなくなったわたしはある夜、彼に直接疑問をぶつけた。
「なんの話だ?」
シャンクスは話が見えないといった様子で首を傾げる。彼のベッドに入ってあとはもう横になって寝るだけになったいま。一日の内で数少ない静かで穏やかな時間が流れている。
「だっていつもわたしを待ってくれているでしょう。キスをするのも。その、夜も」
「いいや? そんなことないさ。気にしすぎだ」
宥めるように笑うシャンクスにわたしはむしろ確信を深める。
「わたしシャンクスを縛りたくない。自由にいてほしいんです。我慢してほしくなんかないです」
「我慢ってなァ」
頬をかいて困ったような表情をする彼にわたしは言葉を重ねようと口を開きかけた。しかしその口は彼の唇で柔らかく抑えつけられてしまった。
「まさかおまえの方からそんな台詞が聞けるとはなァ」
感慨深そうに言うシャンクスはどこかおっさん臭い。先ほどまでの表情とは打って変わってニヤニヤと楽し気に笑っている。
「いやーそうかそうか。ならもう遠慮はいらねェな?」
「え?」
シャンクスの瞳がぎらりと光ったような気がした。
「もう手加減はいらねェってことだろう。前もそんなこと聞くなとか言ってたしなァ」
彼の雰囲気が変わったのが目に見えてわかる。
「約束する。傷つけるような真似はしねェ」
獰猛な獣が牙を剥き出しにして涎を滴らせているのを目の前にしているような気分だった。けれどその爛々と光る眼差しの方が今までの彼よりもずっと彼らしいような気がした。思わずわたしも生唾を飲み込む。
「これからはもう手加減なしだ。覚悟しとけよ?」
「ど、どうぞお手柔らかに……」
彼がどれだけ手加減をしてくれていたのか。この日わたしはようやく思い知ることになるのだった。
シャンクス夢_なみきら2024
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