誕生日
「おはようございます、エネル様」
朝の挨拶をするとエネル様もおはようと返してくれる。これが日常の光景になるまで色々とあったけれど、いまは彼に出会えて良かったと思っている。
「今日はお誕生日ですよね。おめでとうございます」
この神なる御方にも母がいて父がいたのだと思うとすこし不思議な感じがする。
「めでたい日であろう? ヤハハ、親か。そんなものもいたなァ」
「またわたしの声を!」
勝手に考えを覗いていく彼のことはいまだに慣れないし時折恨めしくもある。怒って見せたわたしを彼は笑いとばすがその声があまりにも清々しいせいでわたしのちょっとした感情なんてすぐにどこかへとんでいってしまうのが常だ。けれど不思議と感情を蔑ろにされている感覚は生まれてこない。むしろ彼の傍にいるのは居心地の良いことだとさえ思う。
「恐怖こそが神ではあるがな。おまえはおれの大切なものの一つだ、あまり怯えさせるのも酷だろう? 大切にしているのだから居心地が悪いなどとは言わせん。ヤハハハハ!!」
「だからもう! わたしの声を勝手に聞くのずるいですよ」
「仕方ないだろう? おまえの声が一等よく聞こえてしまうのだからなァ?」
ニヤリと笑ってこちらの横顔を伺うエネル様はすっかりいたずらっ子のようで憎めない、と思ってしまうのだがこれは惚れた弱みというやつかもしれない。
「またすぐそういうことを言う……今日はエネル様の誕生日だからわたしが驚かせたり喜ばせたりいっぱい色々したいのに」
ぶすくれて彼を見上げるとまたヤハハと特有の笑い声が降ってくる。
「おれを驚かせるつもりでいたのか? ヤハハハハそれは楽しみだなァ! 残念だが毎日お前の声を拾っているのだから今更おどろくことなどあるまいよ?」
「それはそうかもしれませんけど。でもきっとエネルさま驚きますよ?」
正直今回の誕生日プレゼントには自信がある。わたしが島を散策して見つけた秘密の場所に彼を連れて行くつもりなのだが、これなら声がばれていても初めて見たときに驚いてくれるんじゃないかと思っている。
「あァだから楽しみにしているぞ。どこへなりとも連れて行くがいい。そこは当然、神への貢ぎ物にふさわしいのであろうなァ」
鼻歌を歌い出しそうなくらいご機嫌なエネル様の手をとって、わたしはとっておきの場所へ歩き始めた。