20251201

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shanks × you…

「なァおまえは今年どうすんだ? また例のやつと一緒なのか?」
 そう尋ねてきたのはこの船の大頭であり、わたしの密かな想い人でもあるシャンクスその人だった。
「例のってなにが?」
「なにがっておまえなァ。あと一ヶ月だぞ? ……一ヶ月で合ってるよな!?」
 ひとりで大騒ぎしはじめたシャンクスを置いてわたしは食後の珈琲をもらいに席を立つ。一か月というとホリデーシーズンの話だったのかもしれないと考えつつコックから珈琲を受け取って戻ると、そこにはシャンクスの先ほどの騒ぎ声を聞きつけたのかクルーが集まってきていて皆で何か騒ぎ立てていた。どうやらわたしがシャンクスを独占できる時間は終わってしまったらしい。あと数分もしないうちにまた新しい大会やら賭けが始まるに違いない。
「なんだよおまえ参加しねーの?」
「そ、今回はパス! じゃあね」
 すれ違いざま集まってきた仲間たちにごめんねと断りをいれて盛り上がる食堂から背を向ける。みんなと一緒に騒ぐのはわたしも好きだし、シャンクスともう少しおしゃべりをしていたい気持ちもあったけれど、実は今日はほかにも楽しみにしていたものがある。シャンクスの言葉の意味は分からずじまいになってしまったけれど、それを話のネタにしてまたシャンクスと話す機会を作れると思えば悪くないような気がした。
 
「よし! それじゃあ」
 ここ数日の間ずっと指折り楽しみにしていた『あれ』を机に広げる。今朝ニュースクーが届けてくれたばかりの最新版だ。といってもグレーと黒ばかりの新聞なんかじゃない。鮮やかなカラー写真と『ホリデーシーズン限定! ご予約受付スタート!!』の文字が並ぶそれは、年に一度ホリデーシーズンの始まりに発行されるフリーペーパー。有名ブランドやチェーン店にとどまらず個人経営のお店までありとあらゆるお店の限定商品が紙面を飾っている。どれもこれも魅力的で見ているだけで楽しくなってくるのだから不思議だ。
 とはいえ、毎年この時期にぴったり合わせて有人島のそれも栄えた街に上陸できるのかといえば当然そんなことはない。ないのだけれど、夢見るくらいいいじゃない。気分だけでもホリデーを楽しみたいんだものと誰に言うでもない言い訳をしてわたしだけの密かな恒例行事にしていた。
「これもかわいいなァ……ってはーい、なにー?」
 商品のあまりの可愛さに思わずため息をついていると誰かがドアをノックした。
「……」 
 ノック音は確かに聞こえたけれどそのままドアが開くこともなければ向こうから呼びかける声もない。誰かのいたずらかと視線を手元に戻すとまたコンコンと控えめな音が部屋に響いた。今回も向こうから声はない。仕方なく冊子を置いてわたしはイタズラの犯人を見にいくことにした。
「まったく誰よも、う……? あれ、お頭どうしたの賭けはもうおわったの?」
 ドアを開けると目の間に立派な胸筋。ではなくどんちゃん騒ぎの中心にいたはずのシャンクスが立ちつくしていた。
「ッ……ええとこれはだな! その!」
「なるほどね。さっきからドア叩いてたのってお頭?」
「お、おお」
「おおじゃなくて。なんで声かけてくれなかったのよ。いたずらかと思っちゃった」
「すまん……それで、だな。あの、おれがここに来たのは、あの、なんだ、ほら……そのあれというか」
 明後日の方向に視線をさまよわせてぼそぼそとしゃべりだしたものの正直何を言っているのかよくわからない。というかこれはあまりにも様子がおかしい。
「もしかして、賭けに大負けして変な罰ゲームとかやらされてたりする?」
「うぐ……い、いや違うこれはおれの意思だ! おまえに! ええと、その……あの……」
 どう見てもおかしいことに変わりはないが本人の意思らしい。わたしとしては、さっきの食堂での話の続きがてらまたシャンクスと一緒に過ごせるなら願ったり叶ったりだ。すっかりホリデー気分に浸って浮かれきった思考のままわたしはついシャンクスに声をかけてしまっていた。
「じゃあさ、とりあえず部屋の中入らない? 立ち話もなんだし、さ」
「ッいいのか?」
「いいから。入ったらちゃんとドア閉めてね」
 肩越しに盗み見るようにシャンクスをそっと見上げる。こころなしか顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。シャンクスにしては珍しく酒の匂いが薄いから多分酔ってはいないだろうけど。そんなことを考えながら彼に椅子を譲りわたしもベッドの隅に腰を落ち着ける。改めて視線を向けたその先で、ちょうど彼の喉仏がごくりと動くのが見えた。
「……おまえを、誘いにきたんだ」
 その一言を皮切りにシャンクスはわたしの予想だにしなかった言葉を次々と並べ始めた。
「わかってる。おまえにはちゃんとした相手がいるってことは知っているんだ。毎年手紙を寄こしてくるやつだろ? この時期になるとおまえはいつも嬉しそうな顔をしてた。……今日も、そうだった。わかっちゃいるんだが、」
「ちょ、ちょっと待って」
 シャンクスは勘違いしている。それは明白だ。手紙ではないけれど確かに毎年この時期を楽しみにしているし、ニュースクーが届けてくれるのを浮かれて待っている。だけど、でも、もしかして。うぬぼれかもしれないと迷いかけて答えを探すように彼を見上げる。
「おまえをそいつから奪うことになってでも、それでもおれは」
 わたしを置いてけぼりに真剣に言い募るシャンクスの頬はやっぱり赤かった。
「好きなんだ。奪うことになっても、たとえ縋ってでも構わねェと思ってる。おれはおまえが欲しい」
 想定外の告白にどうしていいのかわからないでいるとシャンクスはふうと息を漏らしてから嘲るように笑った。
「なんてなやっぱりおれじゃ駄目か?」
 奪ってでもなんて海賊らしい言葉を使って最後には『欲しい』なんて力強く言い切っておきながら、目の前の男は不安そうに寂しそうにたった一言そう言って笑った。いつだって太陽みたいに笑い飛ばしてしまう彼には似合わない笑い方。色々と訂正してあげた方がいいことも多そうだけど、それはきっと後でもいい。
「変なこと言って悪かったな。悪ィ忘れて……ッ?」
「ちょっと黙って」
 勢い任せにぶつけた唇は容易に離れてしまったけれどわたしの気持ちは伝わっただろうか。間近にある彼の顔を覗き込めば驚きに見開かれていた目がまだ信じられないと訴えているような気がした。
「ッいいのか?」
「いいから。それともやっぱりいらない?」
 言葉もなく今度は彼から。噛みつくような口づけはすぐに貪るようなそれに変わっていく。焦りともとれる性急さにそういえばまだ何一つ誤解を解いてあげていなかったと思い当たる。けれど今だけは彼の誤解のままに何もかも奪われてしまおうとわたしは目の前の男に身をゆだねた。

12/01 指折り/あと一ヶ月/そっと見上げる

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