shanks × you…
ほんの数日前のこと。赤く染まる頬に手を伸ばした。取り繕わずに告げられた愛を離したくなくてわたしの方から手を伸ばした。わたしという存在がまるで全て彼の支配下にあるような錯覚を覚えるほど、身も心も全てを彼に許して。わたしはシャンクスに奪われてあげた。
「ねえシャンクス起きてる?」
聞こえてくるのは規則的な呼吸音だけ。彼の気持ちを知ったあの時、わたしはただ勢い任せのキスをした。誤解を解くより目の前のお宝を手にするほうが先だと考えてしまったのは海賊の性かもしれない。
「どうしようかなァ」
あれ以来わたしはシャンクスに求められるまま床を共にしている。だけどまだわたしは彼の誤解を解いていない。わたしが自分の気持ちを伝えようと口を開こうとしても、野生の勘でも働くのか彼の口づけがいつもそれを阻む。あっという間にひん剥かれて快楽に堕とされる日が続いていた。
「キスなんてしてないでちゃんと言えばよかった。こんなのもうやだ……」
シャンクスがくれる言葉も行為も全部真っ直ぐに届いているのに、シャンクスはちっともわたしに気づいてくれない。わたしの気持ちだけがシャンクスに届かない。
「こんなに好きなのにね」
触れたいと思えばこんなにも簡単に。ずっと撫でてみたかった赤い髪。潮風に傷んでるのになんだろうこれは。
「はは、意外とクセになりそう」
「んん……?」
猫みたいに縮こまって伸びをして唸っているこの人が早くわたしのものになるようにそろそろハッキリさせてあげようと思う。
「シャンクスおはよ。……外で待ってる。会いに来て」
白い息を吐き出してわたしは一人の男を待つ。外で待ってるなんてかっこつけたのはどこのどいつだ。あと一分待ってこないならまた今度にしようかな。そう思って振り返るとどんよりした顔のシャンクスがそこに立ちつくしていた。ドアの前に見つけたときもこんな風だった気がする。
「だからなんで声かけてくれないのよ。前にも言ったでしょ」
「あァ悪い」
「あんまりそんな顔するもんじゃないわよ。みんなの大頭なんだから」
「みんなの大頭か……」
大頭と呼ばれて分かりやすく目を逸らした彼を本当はなんて呼ぶべきかわかってる。でもわたしの話を聞こうとしなかったシャンクスに少しの意地悪するくらいは許してほしい。
「あのね、シャンクス。あなたに伝えなくちゃと思っていたことがあって」
「わかってる。もう嫌だって言うんだろ? ……聞こえてた」
「えっ。シャンクス全部聞いてたの?」
「言っとくが盗み聞きするつもりはなかったぞ。ただ、おまえの声があんまり真剣だったから」
すごいよシャンクス。逆にすごい。ベッドでわたしが喋ってた独り言全部聞いてた上でまだ誤解してるなんて。驚きのあまりつい呆けてしまったけれどその間にもシャンクスは儚げな笑顔見せて「ごめんな」なんて言っていた。
「もう分かった、分かったからちょっと静かに。わたしの話をちゃんと聞きなさい。簡単で重大な事実から伝えるからよく聞いていてよ」
彼が神妙な面持ちで頷いたのを見届けて、わたしはもう一度口を開く。
「まず! わたしはシャンクスが好き」
「は、え? おれ……が好き?」
「そう。だから黙って」
「あ、はい……?」
「わたしも最初にちゃんと言えばよかったんだけど、でもあれは勝手に出ていこうとしたシャンクスも悪いんだからね」
戸惑うシャンクスを他所にわたしの口からは言葉が流れ続けた。
「そもそも、わたしには他に付き合ってる人なんていないから! 文通してる相手だっていないし。全部シャンクスの勘違いで」
「まてまてまて! それは嘘だろ。いつもこの時期になるとそわそわしてたし、いつ届くかなとか言ってたじゃねェか」
「あれは手紙じゃなくてフリーペーパー! 毎年ホリデーシーズンに発行されるのを楽しみにしてただけ」
「……じゃ、じゃあこの前おれが部屋に行った日も?」
「ちょうど今年のフリーペーパーが届いてた日ね」
「……えっとつまりなんだ?」
「わたしには恋人も手紙の相手もいないし、シャンクスのことは前からずっと……昔も今もずっと好き。わたしが好きなのはシャンクスだけって何度も言おうとしたのに。邪魔してきたのはどこのどなただったかしら」
「あー……」
気づけば彼の頬があの日と同じように赤く色づいていた。ようやくわたしの気持ちがちゃんと届いたみたいだ。
「シャンクス」
名前を呼べば今度こそ彼も嬉しそうに笑う。わたしが彼へ一歩踏み出すのと彼がわたしに腕を伸ばすのはほとんど同時だった。彼の腕を捕まえて、彼の懐に閉じ込められる。吐く息は白いまま。けれど触れて抱きしめたそばからわたしたちの身体は自然と熱を帯びていく。
「……そうだ、気に入ったならいつでも撫でていいぞ」
「あ、あれは! って、わ待って」
そうだけどそうじゃないと言い返したかったのに急に高くなった視界に驚いて弁明どころじゃなかった。片腕で抱き上げられたと理解するのに時間はかからなかったけれどシャンクスのいたずらな声に腹が立つ。
「ほら撫でてくれよ。好きなんだろ?」
風に吹かれた赤髪が毛先だけふかふかと揺れている。この流れでそれを言うのはちょっとずるいんじゃないか。揺れる赤髪に誘惑されつつも恨みがましくそのつむじを見下ろす。最後に結局シャンクスにしてやられた気がして釈然としないけれど、でも仕方がない。きっとこれが惚れた弱みというやつで。
「……そうだよ、大好きなんだから」
シャンクスにだけ届くようにわたしはそっと耳元で囁いた。
12/03 染まる頬/白い息/触れたい