20251206

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benn・beckman × you…

※現パロ

「お先に失礼しまーす」
 定時の六時きっかりに脱獄、とはいかないもののそれでもまだ残業中の同僚数名よりは早めに仕事を切り上げて会社を出た。自動ドアから一歩外に踏み出すと途端に冬の空気が襲ってくる。いつもと同じ週末だったならカフェかいっそ居酒屋にでも入って身体を温めてから帰るところだったけれど、今夜は彼とのデートが待っている。待ち合わせは金曜の夜七時半。いつになく急ぎ足で駅へと向かった。
 ホームに入ってきた快速電車に駆け込んでどうにか間に合いそうだと胸を撫でおろしていると片手に握りしめていたスマホが震えて彼からのメッセージを伝えた。
『悪い、三十分遅れる。行くまで時間潰していてくれるか』
 端的な内容に続いて送られてきたのはカフェで使えるチケット。なるほどお茶でもしながら待つようにということらしい。ベックマンのこういうところが好きだけど同時に気遣い上手すぎて時々彼がわたしの知らないところで言い寄られていないか心配になる。今でこそ恋人としてそばにいてくれるけれど、わたしが出会う前の彼はとびきりのプレイボーイだったと人づてに聞いたことがあった。
 電車を降りるとオフィス街から少し離れたせいかいかにもクリスマスムードたっぷりに街のあちこちが飾られている。鮮やかな赤、緑、白それからキラキラ輝くシャンパンゴールドの装飾が目にも楽しいそこをひとまずはカフェを目指して歩を進める。けれど頭のなかはクリスマスからすっかり離れて数年前のとある酒の席のことを思い出し始めていた。
「昔のベックぅ? おれに聞いたって言うなよ」
 そう前置きして彼の女性遍歴や数々の武勇伝(?)を聞かせてくれたのは学生時代からの付き合いだという彼の会社の代表さんだった。昔は髪が黒かったとか長髪でいつも一つに括っていたとか、そんな見た目の話から始まって。それだけでもわたしは十分に驚いたものだけれど、シャンクスさんの口から語られる彼のプレイボーイっぷりはもはや衝撃的過ぎて初めは信じられなかった。
 ベックさんの部屋から出てくる女性は毎回違う人だったとか。前に見かけた女性同士が言い合っている、なんていかにもな修羅場に現れたベックさんが結局その場にいた二人と彼女たちの友人まで合わせて四、五人の女性を全員まとめてお持ち帰りした話とか。無茶苦茶な恋愛ドラマのようないっそホラーにも思えてくるような話の連続にわたしがついそんな人が実在するんですねぇとすっかり映画でも見た気分で感嘆のため息を漏らすと
「他人事みたいに言うなって! ベックマンはあんたの男なんだろう?」
 と少し離れた席でかまぼこをつまんでいたベックマンさんを指さしてシャンクスさんが大笑いしていたことをよく覚えている。だけど本音を言えばシャンクスさんも十分フィクションの登場人物みたいな人だった。複数の会社を傘下にもつ企業のそのトップなのにいつもあちこちをとび回っているとか、ちょっと行ってくるなんて軽い台詞を残して戻ってくるときには提携が決まったと言って老舗企業の名前が出てくるなんて話をベックマンさんから聞いていたし、目を惹く赤い髪に人懐っこい笑顔が印象的でつまりは十分にフィクションみたいな人だった。
 砕けた口調で気さくに話してくれたけどこうして思い返してみれば意外と声は穏やかで安心感というか、「よ! 元気そうだな」そうそう確かこんな感じの……
「ってシャンクスさん!」
 思い出している最中に再会することになるなんてとすっかり驚いているわたしにシャンクスさんは相変わらずの人懐っこい笑み浮かべて言葉をつづけた。
「久しぶりだな。これからベックとデートか?」
「えっとまあ、そんなとこです。シャンクスさんは?」
「あー……あれだ忘年会の会場探し!」
 一瞬目が泳いでいたような気がするがそういえばベックさんが前に「あの人は宴会だとか何かにつけて呑むのが好きなんだよ」と呆れた様子で話していた気がする。まさ社長直々に場所探しするほど好きだったとはと内心で感心しているとシャンクスさんがそうだ! と声を上げた。
「今年はあんたも来るよな!」
「へ?」
「ヤソップのとこなんか最近じゃ奥さんとせがれまで連れてくるからなァ。あ、苦手なもんはないか? 食いたいもんでもいいぞ」
「えっあの」
「酒は結構イケる口だったよな。あんたと一度飲み比べしたかったんだがベックのヤツいつも邪魔すんだもんなァ」
「飲み比べってそんな学生みたいな……」
 唇をとがらせて文句を言うシャンクスさんは本当に子どもみたいだ。これはベックマンさんもさぞ苦労しているんだろうなと想像して笑ってしまう。
「とにかく、今回こそはあんたも来るってことでいいよな!」
 すっかりそのつもりになって話すシャンクスさんがあんまり嬉しそうにしてくれるので敢えて断る理由もなかったわたしは彼の誘いを受けようと口を開きかけた。けれど、わたしが答える前に別の声がシャンクスさんに返事をした。
「勝手におれの女を口説くな」
「げ、ベック」
 ため息混じりの台詞とともにわたしの腰に腕を回して抱き寄せてきたのは待ちに待った恋人だった。
「忘年会もいいがせめて仕事を片付けてからにしてくれよ、社長」
「だァーくそ戻りゃいいんだろ! でも忘年会にはちゃんとその嬢ちゃん連れてこいよなァ」
「呑み比べは却下だ」
「へーへー」
 シャンクスさんが片手を振って応えつつ駅へ向かって歩いていくのをわたしはベックさんの隣で眺めていた。
「シャンクスになにか聞いたのか」
 こちらに向き直ったベックさんはわたしの顔を見るなり表情を曇らせた。
「忘年会の話?」 
「……それだけか」
 ベックマンさんの瞳は物憂げに揺れていた。なにか不安にさせてしまったのだろうか。
「わかった。それじゃ行くか」
 パソコンを閉じたみたいにベックマンさんの表情からはそれきり不安げな感情が消えていつも通りの彼に戻っていた。優しくて紳士的で時々ちょっぴり強引な、余裕のある大人の顔のベックマンさん。
 そんな恋人がわたしの手を引いてしまえば、大好きな彼と一緒にいるという事実を前にあっという間に歓びが体中を駆け巡る。彼の質問の真意を問うこなんて忘れて、わたしは久しぶりのデートを謳歌した。

12/06 街のあちこち/クリスマスムード/手を引いて

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