おかえり#2
そして、この一組の男女が宿からともに出てくる場面を少し離れた露店の入り口から密かに見つめる影があった。
「あれってシャンクスさんとナマエさんでしょうか?」
そう尋ねる甘ったるく高い声にベックマンは溜息をついて答える。
「だろうな……ったく仲がいいのも考えものだ」
ベックマンの眉間に皺が寄るのに気付かず女はまた尋ねる。
「もしかしてあの二人付き合っているとか?」
「そういう話はきいたことがないがどうだろうな。案外隠れて付き合ってたりするのかもしれねェ」
「ヘェ、そうなんですね……」
女は小さく呟くと笑みを浮かべる。
「なにか言ったか?」
「いえ!なにも」
「そうか。さてお嬢さん、あちらさんは船に戻るようだがおれたちどうする?」
「それならお昼にしましょうよ。わたしお腹へってしまいました」
そうして船に向かうナマエたちに背を向けると二人は街の中心部へと向かうのだった。
「ようし野郎ども!出航だ!」
お頭の掛け声にクルーたちが威勢よく雄たけびでもって応える。レッドフォース号は再び海原を駆っていた。
結局、あのあともナマエは何をするでもなく陸での毎日を酒に明け暮れた。しかし一人で寂しく、ということもなくなぜか毎回どこからともなくお頭が現れて酒の席を共にするのだった。おかげで寂しさとは無縁のどんちゃん騒ぎの毎日で副船長とあの女のことを忘れるには丁度良かった。以前にもましてお頭と打ち解けられたような気がして、この船に乗るものとしてはやはり嬉しかった。と同時に気を遣われていることも理解していた。
お頭が気付いているくらいだから案外この船のクルーたちは皆わたしの抱える意気地なしな心に気づいていたのかもしれない。出航したその夜早速始まった宴で妙にみんなが構ってくれた。視界の端にあの女と副船長がまた耳打ちしあう姿を捉えながら私はみんなの優しさに乗っかってみないふりをし続けた。
「ナマエは今日もいいのみっぷりだなァ!」
どかりと隣に座り込んできたのはまたしてもお頭だった。陸での日々以来すっかり距離感が近くなったのか肩を抱いてきたかと思うとガハハと大口開けて笑っている。わたしはその杯に自分のものをぶつけてもう何度目か分からない乾杯をした。
煙草の煙が暗い空にもわりと浮かび上がっていく。それを吐き出したのはこの船の副船長ベン・ベックマンだった。宴の中心から離れて一人、船べりにもたれかかる。先ほどまで傍でともに吞んでいた女はいまも宴の輪の中で笑い声をあげている。しかしベックマンの目が追うのはそちらではなく、赤髪の男に肩を抱かれている女クルーの方だった。
「ったく……」
苛立ちのこもった溜息が煙とともに夜空へ吸い込まれていった。離れた場所で繰り広げられる光景に思わず煙草のリフィルをきつく噛んでしまう。お頭にも彼女にもそのつもりが全くないことは分かっている。だが頭で理解していてもやはりこうも見せつけられるようにされてしまっては腹も立つ。それにどうせお頭の方はわかっていてやっているのだろう。実に腹立たしい。そして彼女は彼女でいくらなんでもあそこまで無防備だとは思っていなかった。お頭と違って無意識だとしてもそれはそれでたちが悪い。結局のところベックマンは今の状況に苛立っているのだった。